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    練習量を減らす脳の使い方

    昨日、東京音大にて「音楽家の為の脳教育」~練習量を減らす脳の使い方~と題し、脳科学、身体運動学の分野で研究を行っていらっしゃる第一人者 古屋 晋一先生のセミナーが開催されました。
    当初は、作曲家・ピアニストの土田 英介先生のベートーベン初期ソナタのレクチャーと2本立てで行われる予定でしたが、急遽体調不良で内容が変更になったものの、以前古屋先生の著書「ピアニストの脳を科学する」を読んでから興味のあった分野だけに、大変内容の濃い、有益で指導にも演奏にも役立つお話が盛りだくさんで、素晴らしいセミナーでした。

    今回のセミナーでは、ピアノを演奏する方、それに関わる方全てにおいて大切な事柄ばかりでしたが、その中からいくつかを挙げてまとめてみたいと思います。

    まず、ピアノをただやみくもに練習するのではなく、最適な練習をすることが時間的にも身体の使い方においても、はたまた人生においてもいかに大切かが分かりました。

    何かを極めるためには1万時間の法則がありますが、ただ長時間練習すればいい訳ではなく、反対に恐ろしいことに、長時間の反復練習(1日4時間以上)を繰り返すと、ジストニア(脳疾患の一種で、思うように指などがコントロールできなくなる病気)などの病気を発症する可能性が高くなるということです。

    さて、練習の質を高め、年齢とともに少ない時間で上達していくには、頭を使うということです。
    演奏に必要な能力は、読譜力、暗譜、初見など様々なものがありますが、先ずは記憶に関する“暗譜”から。

    暗譜するには、視覚・聴覚・触覚(タッチ)・筋感覚などの各チャネルを使いますが、本番でとんでしまうのは、これが触覚だけなどに偏った場合に起きます。
    中でも聴覚が一番有効で、時間がない時などは、耳で覚えるのが指で覚えるよりも効果的との事。
    ただ、耳に頼りすぎて楽譜を読まないのは本末転倒で、あくまでも優先順位としては、ということだと思います。

    記憶の過程では、

    増強ー干渉ー保持ー呼び出し

    があり、

    干渉
    あるパッセージの後、全く別のパッセージを弾くと、前のパッセージを忘れてしまうなどの干渉が起こります。
    そういう場合は、こまめに休憩を取ったり、レム睡眠を入れる、また練習方法として同じメロディであればリズム変えをするなどすれば記憶が定着しやすくなるとの事。
    何もしていない時でも脳は働いており、時間とともに記憶は定着していきますので、ピアノを弾いていない時に演奏を映像で見聴きしたり、楽譜を読んだり、それを口に出して言うなど、イメージトレーニングをすることで暗譜は飛びにくく、ミスが減るということ。
    更に重要なのは、イメージする際に感情も込めるということ。

    記憶の保持
    報酬を与える(褒められる)と効果が高まる
    罰を与えられる(怒られる)と効果は弱まる

    これは指導者にも保護者の方々にもサポートする上で大変関係ある事柄で、指導者としては練習の面白さや醍醐味を教え、保護者の方は練習の励みになるよう、その子が独り立ちできるまではご自宅で是非共に関わり合いながらサポートしていただきたいということです。

    後に述べますが、今脳を鍛え、効果的な練習をするということは、将来少ない時間で上手くなるという未来への投資であり、大人になってその子の大きな財産になるということ。

    呼び出しと再強化
    よくやりがちですが、本場直前に舞台袖で楽譜を見返したり指を動かしたりすると、記憶が一時的に不安定になるということ。
    ゆっくり、丁寧に思い出せば不安定になりにくいそうですが、曲を寝かせることが大事で、呼び起こす→寝かせる→呼び起こすことを繰り返すことで強固になるようです。

    脳というのは、反復されることで記憶が強固になっていきますので、ピアノ練習で注意したいことは沢山ありますが、中でも姿勢に関してはとても重要で、変な姿勢での練習を繰り返すと、なかなか直り辛くなり、演奏でも良い音が出せず支障が出てきます。

    また、早く弾いてリズムが崩れるのも然りで、上手く弾けない練習をしているようなもの。
    “フィッツの法則”で、「速度と正確性は反比例する」というのがあるそうですが、早く弾いて正確性が落ちると、

    脳はカバーしようとする→筋肉を固める→力んで弾く→30秒で疲労→筋肉を痛める

    そんな悪循環になってしまうようで、そんな時はゆっくり弾けるテンポから練習し、あるテンポで力まずに意識せずに思い通りに弾けた時、オートモードになるようです。
    反復練習はやり方を間違えるとそれを脳が記憶し大変なことになりますが、スキルの維持には必要ですので、疲れたら休む!のが必須です。

    舞台も経験
    ただ練習しレッスンを受けるだけではなく、一度舞台に立つことがいかに大切かということはなかなか口で説明しにくいのですが、ピアノを続けていく過程で目標となるのが発表会などの舞台経験です。
    例え失敗したとしても、次に活かすことでそのデータが蓄積され、必要な時にその記憶を呼び起こして使えるようになり、タッチの異なるピアノや音響など、いつもと異なる環境でも対応できるようになってきます。
    舞台経験が多ければ多いほど良いというのは、上達する上で必須なのです。

    まだまだ書き切れませんが、とにかくピアノは最低でも5年、欲を言えば10年は続けなければ成果が出ない息の長い習い事です。
    ほんの2~3年でやめてしまうのは、後々を考えても大変もったいないことなのです。
    練習に身が入らない時もあるでしょうし、すぐにできるようにならなくても時間をかけて身に付いていくものですので、是非長い目でみてサポートしていただきたいと心から思います。

    今努力して身に付いているものは、一生ものなのです。
    いつ始めるかも大事な要素ですが、小さい頃の吸収力、上達スピードは大きくなってからではとても追いつきません。
    今が一番上達できるチャンスなのです。

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